た事がないんだから。
今日は一人なんですか?
「いいえね、□□[#「□□」に「(二字分空白)」の注記]そこの例のうちへ来たんです。
ほら、あの先一度会ったじゃあありませんかあの中村って云う人ね、
あの人と来たんです。
でも他所《よそ》に用がまだ有るんだって京橋へ行きましたよ!
「へえ、わざわざ用を作ったんですよ、
そうにきまってますともね。
あの方はそう親しくない人なんかの家へ行きそうない様子ですもの、
引込思案らしい方ですものねえ。
「そりゃあ、そうかもしれませんよ、
あの人ではね!
それが又あの人の良い処なんだもの。
[#ここで字下げ終わり]
篤はその人の顔を思い出そうとする様な目差しをしながら云った、そしてまるで気を変えた様に千世子の指のオパールを見ながら声の練習でもする様に気をつけて節まわしよくするすると話し出した。
[#ここから1字下げ]
「此頃体の具合はどうなんです。
少し眼が窪んだ様ですねえ、
夏まけでもするんでしょうか。
「いいえね夏まけってんでもないんだけれ共四月から五月にかけてきっと頭の工合を悪くするんですよ。
もう四月の濃い空気が私にのし
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