人も持って居なかった。
自分でも又そうである事を千世子は幸だと思って居た。笑いながら御親友になっても笑って別れる御親友はありゃあしない、と云う事を千世子は深く信じて居た。又そう云う経験も沢山持って居た。
親友のないために不都合な時より都合の好い場合の方が多かった。
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貴方の一番御親しくなすっていらっしゃるのは?
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よく人はこんな事をきく。
そのたんびに千世子はだまって笑いながら沢山の本に目を注いで居た。
近頃余計にそう云う気持になって居る千世子はその晩も京子の事を考えながらうす暗い燈の下でまたたく本の金色のかがやきやしずかにただよって居る紙の香りをしみじみと嗅いだ。
そうして自分でも喜んで居る大きな額が一層大きく――高くなった様に感じて居た。
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まあ、何にしても丈夫にならなけりゃあ。
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千世子は今月が去年も頭を悪くした月だと思って深い呼息を一度すると何も彼もほっぽり出した様な顔をして眼をふさいだ。
縁の下でいつの間にか鳴き出した虫がジージー、ひつっこく千世子が寝つくまで鳴きつ
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