つまらないようなもんじゃないか。沢山お金とったって、とっただけの割で組合へとられてさ、おまけに失業積立金まで出して、ひとを食べさせてやるなんて」
ナースチャの頭が、ゆっくり、農民らしくこんがらかりはじめた。アンナ・リヴォーヴナに云われてみると、自分がはっきり知らぬいろいろのことのどこかに、なにか自分に損の行きそうなことが隠れているように感じられ出した。ナースチャは、アンナ・リヴォーヴナを信用はしなかった。同時に、組合も全部信用出来ない心持になって来たのであった。陰気な眼付をして、ナースチャはテーブルの上の紙を眺めた。
「心配おしでない、いいようにして上げるから」
アンナ・リヴォーヴナは、しょげたナースチャの肩を押し出してやりながら云った。
十一
「どうした? ナースチャ」
リザ・セミョンノヴナが舶来の、十五ルーブリ出して買った絹靴下の穴をつくろいながらきいた。
「組合《ソユーズ》のこと」
両手を腰にかって立ち、リザ・セミョンノヴナの手許を見下していたナースチャは、隣の食堂へ目まぜして、小さい声を出せと合図した。
「行きました。この間」
「すんだの」
「アンナ
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