赤い貨車
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)轍《わだち》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)洗濯|盥《だらい》で
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)このうね[#「うね」に傍点]をきって
−−
一
そこは広い野原で、かなたに堤防が見えた。堤防のかなたに川があるのではなく、やはり野原で、轍《わだち》の跡が深く泥濘にくいこんだ田舎道が、堤防の橋の下をくぐったさきにつづいて見えた。工事のはじめから堤防は大きな空の下で弓なりに野をはい、多分愉快な自動車道にでもなるわけらしかった。革命の時、工事が中止された。それ以来いつになっても働く人間の姿は見えず、ある個所は橋をかけるように堤防と堤防とをきりはなしたまま、鉄橋はなかった。村に近いところでは、すでに堤防の砂がくずれた。未完成な堤防になれた子供たちがそこを駈けのぼったり駈け下りたりした。山羊が高いところで白い腹の毛を風に吹かせていることもある。
ナースチャは、伯母の家へすむようになってから、ずっとこの堤防を見馴れていた。しかしナ
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