書いたげるが、お前、組合ってどんなもんだか、よく知ってるかい」
 食堂の戸口のカーテンのところに立ち止って、ナースチャはまごつきを感じ、むっつり答えた。
「知ってると思います」
「そりゃ素敵だ! 説明してごらん」
 ナースチャは、前垂をひっぱりながら、野性なきつい眼付で主人たち夫婦をみた。ナースチャは主人たちの前で長い文句で自分の考えを述べることなどに、てんからなれていない。アンナ・リヴォーヴナはからかうように、
「きまりわるがることはないじゃないか」
と笑った。
「お前の組合のことをお前が話すんじゃないか」
 腹が立って来て、ナースチャは云った。
「組合へ入れば、映画がやすくなるんです」
 爆発するような口をあけてあおむきに寝ころんだパーヴェル・パヴロヴィッチが笑った。
「上出来《ブラボ》! 上出来《ブラボ》!」
「父さん! たら……それから? ナースチャ」
 ちっとも云いたくない心持をこらえて、ナースチャは、
「クラブもあります」
と云った。
「夜ひまなとき、わたし、クラブのクルジョークで勉強したいと思ったのです。わたし、ここでほんの一人ぼっちだけど、そこへいけば沢山|仲間《タワー
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