ら娘を見た。ナースチャはきかれたことを理解しなかった。
「組合《ソユーズ》……どんな」
「ナルピット」
「そこへ入ると映画がやすくなるんですか」
「わたしいつだって十五カペイキか二十カペイキでみている」
 やっと石油が売り出され、列は少しずつ前進しはじめた。娘は繩で壜をつるし上げながら云った。
「わたしもう二年組合に入って、夜は勉強しているし、朝九時から夕方五時ぐらいまでの働きだし、満足してるわ」
 壜へ石油をつめてもらうと、娘は、外套に雪をつけたまま、ナースチャの横を通りぬけて先へ出て行った。

 村での話とはちがって、ナースチャがいつくと、直ぐ二人も借室人《クワルチラント》が入った。その一人が、直接の主人よりナースチャになんだかおっかぶさって(悪魔《チヨルト》に|さらわれろ《ヴァジミー》)泣きたい気持にさせるのも仕方がないとする。洗濯物のふえたことも、このごろは食物ごしらえをほとんど一人でしなければならなくなったこともまあいいとする。ナースチャを苦しめるのは、この森の樹より人間の多いモスクワで自分が、まるっきりの独りぼっちだという事実であった。
 アンナ・リヴォーヴナは不親切ではな
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