訟を起したり、アンナ・リヴォーヴナにはひどく居心地わるかった。それにせっかく四五月経ってなれたと思うと六月目には出てしまうものも多い。職業組合員《チレン・ソユーザ》になるには六ヵ月働いた上でなければならず、組合員になると、アンナ・リヴォーヴナの利益とは関係ない利益が彼女たちにあるのであった。ナースチャは職業紹介所《ビルジャ・トルダ》から来る娘でなく、田舎の原っぱから真直ぐ自分の家へ来るというだけでも、アンナ・リヴォーヴナは満足だった。

「可愛いムーシェンカ」
 アンナ・リヴォーヴナは娘へ書いた。
「この間は手紙をありがとう。坊やの歯々《はあは》がとうとう生えたってね。おめでとう。わたしは本当にうれしいよ。ソヴェトのわたしの孫の歯もやはりキリストさまのと同じに前歯から生えることが確められて。
 イワン・ドミトリィッチさんは相かわらず会議《ザセダーニエ》会議《ザセダーニエ》かい。昔の妻は良人に猟に出かけられてよく淋しい思いをしたものです。いまの妻は会議に良人を奪われる。会議が猟よりわるいところは、会議に季節《セゾン》がないことと、猟師小舎でのやき肉のかわりにお茶のぬるいのとサンドウィッチ
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