二度くらいしか肉入のスープなど食べなかった。)
「それごらん!」
夕立の水たまり、そこにいまは日光と青葉のかげが爽やかにチラチラしている上を越しながら、アンナ・リヴォーヴナは陽気にナースチャに断言した。
「もうちゃんと立派な女中さんじゃないの!」
主人は技師で、大きい娘はもうお嫁に行ってしまっていて、家は暇なこと、月給は十三ルーブリということをアンナ・リヴォーヴナは説明した。
「わたしはいまのようにしているよりいいと思うね」
「…………」
「どうしたのさ黙りこんで……ああ、別れたくない人がいるのね?」
「伯母さんに話して下さい、アンナ・リヴォーヴナ!」
ナースチャはとびつくような本気さで云った。
「どうぞ伯母さんに話して下さい。わたしは行きたい! 本当に行きたいんです!」
ナースチャのそばかすのある顔が急にみっともなくのぼせて、彼女は涙を頬っぺたの上に落した。
「泣かないだっていいのに、おかしなナースチャ!」
モスクワでは職業組合《プロフソユーズ》に入る女中が多くなった。職業組合員《チレン・ソユーザ》の女中は、まるで役人でも頼むようにやかましい証書を交換したり、一つ間違うと訴
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