で夜の十二時五十分までタバコでもうもうした席に坐っていなければならないことです。まして猟には、あのあぶなかしいエナメル靴をはいた秘書役などと云うものはついていなかったんだからね! (だがイワン・ドミトリィッチには、くれぐれもよろしく伝えておくれ。わたしは母親の本能で、彼がそうざらにはないお前の良人なのを知っているんだからね)
さて、わたしもいよいよ明日ここを引きあげます。例年の通り日やけと散歩でつぶした靴の踵のお土産のほかに今年はちょっとした掘出し物がある。あててごらん! 女中がつれて帰れるらしいのです。いまのモスクワで、身許のはっきりした田舎出の女中は、人造絹糸でない絹ものと同じくらい珍しいじゃあないか。大して気は利きそうもないが、お前も知っているサーシュカね、あれのように、またたく間に三本も赤葡萄酒のびんをひろくもないユーブカの間へちょろまかすような芸当のないのもたしからしい(孤児《みなしご》だから面倒でないし、辛棒もするでしょう)もし――
アンナ・リヴォーヴナは、もしお前の方で欲しければと書きかけたのを消し、
――もし眼鏡ちがいでなかったら、どうぞお前もよろこんでおくれ」
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