かな土の匂いとがした。ナースチャの桃色木綿の裾《ユーブカ》に風が吹いた。
 ナースチャは、わざと自分の腕の下から、そばかすのある頬ぺたを逆にして、ちょいちょい人気ない原っぱのかなたの空とその下の赤い貨車の列とをのぞいた。貨車は動かず、空の白雲が流れて、野原の半面と貨車とを大きくかげらした。

        二

 村道は埃っぽい。
 村道のはずれに並木道があった。その古い菩提樹《リーパ》の並木道をあっちへ横切ると、石敷の歩道がはじまる。槭樹《ヤーセン》の影の落ちる歩道は八方から集って、緑のたまりのような公園となった。
 公園はほとんどロシアじゅうに有名だ。天気のよい日曜日、池のまわりのベンチの上に、あらゆる賑やかなプロレタリアの色彩と笑声があふれた。ギターと手風琴《ガルモニカ》の音が木立の蔭から夜まで響いた。石橋の上で、赤いプラトークをかぶった工場の娘が兵卒と踊る。公園じゅうにアイスクリーム売りの手押車と向日葵《ひまわり》の種、糖果《コンフエクト》などを売る籠一つ、あるいは二尺四方の愛嬌よき店がちらばった。市からは工場の見学団《エクスクールシア》が楽団を先頭にしてやって来る。見学団は
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