、おかみさんがあなたへ紹介して下さったもんだからわざわざ来たんですよ」
ナースチャとシューラとは緊張した顔を仕立屋の伯母に向けた。伯母はなんと答えるであろう。どの客とでも話がここで最も白熱し、彼女らはかけ引をみるのであった。
伯母は、シューラそっくりな声のない蒼白い笑いをうかべて黙っている。(昨日彼女が見つけなかった商売仇を、夏だけ来るこの人が下宿の向いに今日見つけたのだそうだ)
「あらましのところでいいんですよ。もちろん」
「まだ品物を拝見していないんですから……」
「勉強して下さるようなら、わたしの友達でおたのみしたいって云っている人もあるし、いくらでもお世話しますよ、ねえ」
客はナースチャの方を見ていくぶんわざとらしく元気に笑った。ナースチャは笑わなかった。
「わたしは子供たちを食べさせて行かなけりゃなりませんですからね」
伯母が云った。
「でも御心配はいりません。とにかく明日品物を拝見してからのことにしましょう」
ナースチャとシューラが中庭を見下すと、黄繻子の頭巻きをした若い女は、さっきの石の上で小さく足ぶみしながらまだ待っていた。ねずみ色のショールを頭へかぶりながら
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