れ方をみた時、どんなに深刻にこれらの人々は自分の生、自分の運命、自分に連らなるすべての愛する人々の運命が、権力によって愚弄されたかということを知るだろう。選挙が迫っている、その人は選挙権を持っている。ところが、書類の上でその人は故人である。まず生き還ってから、戸籍の上に存在するという手続きを経てから選挙手続きも改めてとらなければならない。これらの人々の一票は投票箱に落ちる時人生のどんな響きを立てることだろう。ドストイェフスキイは、ロシアの革命運動に参加した理由で死刑を宣告された。銃殺されようとするその瞬間に特使が来て彼は死なずに済んだ。然しこの一つの経験はドストイェフスキイの生涯を替えたのであった。
 戦争前の私達と、済んだ後の私達と決して同じものではなくなっている。そのことは若い人々にとってどんなに自覚されているだろう。日本の民主化が言われはじめた時、青年達は自分の家庭の生活を顧みて、日本の家族制度が動かすことの出来ない段々のように一家の中に刻みつけている戸主、長男、次男、三男の身分の違いを何と思ったろう。戦争や戦災で家を失い、又は夫を失って、実家へ子供を連れて帰って来た女の兄弟達の
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