思いがあったろう。けれども客観的にみればこれは日本の近代的重工業の生産力が全く立ち遅れている苦境を、若く、一つの情熱によって命を捨て得る青年の生命によって埋めて行こうとした軍事的手段であった。特攻隊に参加はしなかったが学徒動員と徴用とによって過去四、五年間日本の全ての若い人が動員された。そして突然、自分の生活の道を変更させられ、何年間か一貫した目的を以ていそしんでいた学業や仕事を放擲させられ、一つの鍋の中に打ち込まれた豆のように煮つめられた。そういう避けることの出来ない事情におかれた若い人々にとって最も致命的であった点は、ただ外に現われた生活の道が強い権力によってへし曲げられたということばかりではなかったと思う。本人達にとって決して自然に受けとれない、納得出来ないそれ等の生活の経験に対して、自分の疑問、自分の探求心、自身の結論を導き出すことを全く許さなかった日本の権力の、非人間的な圧力というものこそ、数百万の青年が今日において昨日を顧みた時、口惜しく思う点があろうと思う。
 私達の人生には、常に難関というものがある。苦境というものなしの人生は一人の人にも可能とされていない。私達がそれら
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