。到るところで、ゴーリキイは生活のつじつまの合わぬもの、ぴったりしないものにぶつかるのであった。「俺はこれからどうなるのだろう?」そういう彼の問いに答えるのは、堂々めぐりの混乱、ちらり、ちらりと見えながら、しっかりと掴めない、よい生活への希望の閃きである。丁度この苦しい時期に、ゴーリキイの宝のような祖母さんが死んだ。その悲しみを打ちあける一人の友達もパン焼釜のある地下室にはいなかった。
カザン大学ではこの頃学生の大きいストライキがあった。然し一日の大部分パン焼釜にしばりつけられているゴーリキイには、その意味が十分わからない。二十歳のゴーリキイの苦悩は劇しくなるばかりであった。「夜、カバンの河岸に坐り、暗い水の中に石を投げながら三つの言葉で、それを無限に繰返しながら」、彼は考えた。「俺は、どうしたら、いいんだ?」
その冬十二月の或る夜にゴーリキイは雪の深いヴォルガの崖にのぼり、ピストルで自分の胸を打った。弾丸ははずれた。彼は生きた。そして、又パン焼工場に戻った。――
この事件があってから後、ゴーリキイは却って生活に対する真率な活溌性をとり戻し、翌年の春から人民主義者のロマーシという
前へ
次へ
全18ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング