キイは、偶然の機会から彼の旺盛な発展の道の上に現れたオリガに彼の念願の全部を素朴に投げかけたのであった。
 この三人暮しの有様は、オリガがなくなって後書かれた「初恋について」の中に色濃やかな鮮やかさで、情愛ふかく描かれている。
 コロレンコとの友情が深められたのもこの時分であり、自分の文学的労作についてだんだん真面目に考えるようになって来たゴーリキイは、オリガとの生活が自分の踏んで来た道を脱させる力をもつことを理解しはじめた。オリガは若いゴーリキイが自分に傾けた熱情について非常に正当な賢い理解をもった。二人は互に確かりと抱き合い、黙ったまま、いくらか悲しい心をもって別れた。「こうして、初恋の歴史――その悪い終末にも拘らず、よい歴史は終りを告げた」のであった。
 一九〇一年、ゴーリキイは初めて首都ペテルブルグに現れた。今は誰知らぬ者ない「フォマ・ゴルデーエフ」の作者として。「三人」の作者、「鷹の歌」の作者、フランスのアカデミーからユーゴー百年祭の招待が来た国際的な作家マクシム・ゴーリキイとして。トルストイ、チェホフ、アンドレーエフなどが知友に数えられるようになっていたが、その時分のゴーリ
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