ある。
 世の中の勢は益々画一へ向い、工場でも小さな工場は併呑されて消えて行っている一方で、人々の感情に郷土的な品物や極めて手工業的な製作品が新しい興味を呼びさまして来ている関係は、今日の日本の文化の心理として案外に微妙であり重大でもあるのではないだろうか。
 或る時期の文化の中で、こういう分裂の現象があらわれて来ることは見過されてならないことだろうと思う。
 生活の片隅から親愛な美しさが失われてゆく感じから我知らず郷土的な風趣のあるものだの、げてものの面白さだのを求めている人々の生活にしろ、つまりはそれらのものを外から運びこんで生活のあすこ、ここに置いているだけのことで、つきつめて云えば一種の消費が形を変えたものに過ぎない。生活の面に飾られ、置かれ眺められているだけのことで、生活の内部からつくられたものでないことは否めない。
 郷土的な物産にしろ、それならばそれぞれの地方で一般の人たちがそういう製作品の味いで日常生活を特色づけ豊かにしているかと云えば、今日ではその地方を潤す色彩としてよりも、寧ろ郷土物産として都会へ売り出される目的でつくられる方が多いだろう。嘗てはそれぞれの土地の人の
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