生活のなかにある美について
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)凜々《りり》しさ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)へり[#「へり」に傍点]がスフで切れやすい
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 私たちの日常生活のなかにある美しさというものも、今はなかなかきつい風に吹かれているのではないだろうかと思う。
 日々の生活にあった日本の美しさの隅々が変化をうけつつある。たとえば家の障子というものの感覚は、私たちの感情に結びついたもので、障子をはりかえたときのさわやかな気持だの、障子の上の雪明りだの日本の抒情に深い絆がひそんでいる。けれども、今日では普通の家の障子は、随分とひどい紙で張られていて、紙の美しさはないばかりか、到ってさけやすい。
 日本の畳も、特別むずかしいことを知らない私たちにすれば、へり[#「へり」に傍点]がスフで切れやすいことは困却の一つである。
 木綿の生活的な美しさも、日常のなかへ再び嘗ての豊富さでかえって来ることはないだろう。
 いろいろそういうところがあって、それが生活の気分を、平易親密な美しさに憩わせることの少いものにして来
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