生活のなかにある美について
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)凜々《りり》しさ
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)へり[#「へり」に傍点]がスフで切れやすい
−−
私たちの日常生活のなかにある美しさというものも、今はなかなかきつい風に吹かれているのではないだろうかと思う。
日々の生活にあった日本の美しさの隅々が変化をうけつつある。たとえば家の障子というものの感覚は、私たちの感情に結びついたもので、障子をはりかえたときのさわやかな気持だの、障子の上の雪明りだの日本の抒情に深い絆がひそんでいる。けれども、今日では普通の家の障子は、随分とひどい紙で張られていて、紙の美しさはないばかりか、到ってさけやすい。
日本の畳も、特別むずかしいことを知らない私たちにすれば、へり[#「へり」に傍点]がスフで切れやすいことは困却の一つである。
木綿の生活的な美しさも、日常のなかへ再び嘗ての豊富さでかえって来ることはないだろう。
いろいろそういうところがあって、それが生活の気分を、平易親密な美しさに憩わせることの少いものにして来
次へ
全10ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング