本の看護婦は、その人々の気立てによって、親切でやさしい人も少くないけれども、一般として、訓練が不足しているということは定評でした。ですから、昨今は、日本の看護婦の能力の水準を国際的な高さにまでひき上げるための規則もやかましくなったわけでしょう。
 日本の看護婦が欧米の看護婦たちのようによく訓練されていず、しっかりしていないと、ひとくちに云っては、日本の現実を理解しないことだろうと思います。これまで、日本の婦人は、子供のときからお嫁に行く仕度ばかりさせられて育って来て、自分で職業を選び、その職業に対して社会的責任を感じながら自主的に成長してゆくというような生きかたは、例外でした。日本の婦人の大多数が、まだ社会的に経済的に独立して生活してゆく習慣をもっていないこと。この事実が、婦人の職業の一つとして看護婦という立場をとった場合にでも、何となし先生に対して依頼心のつよい、命令に従順でさえあれば、看護婦としての範囲とその責任において、臨機に病人を扶けてゆく積極性をかくわけでしょう。
 病気で苦しいとき、体さえ自分で動かせないとき、看護婦のまめまめしくて、統制のあるたすけの手は、たとえようのない
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