した。
 丁度日本が中国への戦争を拡大していたころで、間もなくわたしはその新聞さえよむことができなくなりました。したがって、その本も輸入されませんでしたが、ロンドンの一人の看護婦のかいた『乞食から国王まで』という本の名とその内容は、忘られないで、記憶にとどまっています。
 看護婦という立場は、病気という人間の苦しみを通じて、ほんとうに、いろいろの人の生活にふれ、その運命を目撃します。内科の家庭医となって、一つの家庭に接触すると、病気そのものよりも、むしろ、病気をしている主人なり妻なり老人なりに対するその家族のひとたちの感情の複雑さにおどろく場合が少くないと云われています。看護婦の立場も全くそのとおりと思われますが、わたしは、みなさんに一つの質問をしたい気がします。あなたがたは、病む人々が生命のためにたたかう事業をたすけて、けなげに努力していらっしゃる。そのような看護婦という職業をもつ一人の女性の人生として、きょうの生活をどう感じて働いておいででしょうか、と。
 生きるために病とたたかう人たちをたすける看護婦という職業において、日本の看護婦は、どのように社会から評価されているでしょう。日
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