さ富士山の百二十倍。この二千億を日本の総人口七千万と仮定すると一人が三千円ずつもっていられるはずである。ところが、実際にはどこへ金が吸いこまれてしまっているのだろう。正業にしたがっているものは、税、税の苦しみで、片山首相が「間借り」で都民税一二〇円ですましていられたことを羨んだ。
 こういう状態であってみれば、今日のメーデーに叫ばれる生活安定の要求は、この前二度の五月一日よりも痛切である。
 税と云えば、東芝のような大企業が、所得税の滞納のため財産の一部を公売にふされた。外聞がわるそうな公売で、東芝の生産した不合格品のストックや、会社として負担になっていたけれども潰してしまえなかった下請け工場の整理が出来て――労働者をクビにすることが出来て――或る意味では悪くなかったというのが現実である。大資本は、税の滞納に対する処分にさえも利益をひき出す。このことを思えば勤労所得税の廃止は、当然すぎる。まして、きょうの新聞によると、日本には西ドイツと同じように、経済集中排除法を緩和して資本家の復活を可能にしようという案が示されている。
「極東委員会の、ソヴィエト、中国、フィリッピン等の各国代表から猛
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