のための文学の狼火として存在したプロレタリア文学運動の歴史と、文学についてのその基本的認識が、よしやどんなに大まかなものであり、不幸な傷をうけているにしろ、絶対的に存在価値をもっている所以である。

          三

 ソヴェト同盟の作家に、有名なイリヤ・エレンブルグという人がある。一九二七・八年ころメイエルホリドが表現派風の上演をした「トラストD・E」の作者であるが、このエレンブルグの作家としての活動の形は、四〇年までのソヴェト文化の上では、一つの特殊例であったのではないかと思う。エレンブルグは非常にしばしばフランスその他国外に暮し、フランスが中心になって反ファシズム闘争の人民戦線運動をおこした当時、活溌なルポルタージュを発表した。ヨーロッパ資本主義の国々における民主的であり進歩的である集団と、ソヴェト同盟の達成との間の、文化的輸送管のような役割を占めていた。イリヤ・エレンブルグは私たち外国作家の目に、ソヴェト作家中のハイカラーな人の一人として見えていたのであった。
 こんどの大戦を境として、ソヴェト全市民の国境は拡大された。シーモノフに「ユーゴスラビアの手帳」という短篇集が
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