文に微妙な神経質さ、嫌悪、その反動としての皮肉的語気が仄見えている、彼女の矢張り監獄は辛いところだという意見が正直で人間的で私に好感を与えた。それだからこそ、或る意味で人生の闘士の一人である筆者のような人が、只、辛いところです、ではいけないと思った。私はいつか、同じ筆者が、もう一重事実の底に沈み、同時に客観した記録を遺されることを希望した。
 同じ雑誌の、中河幹子さんの小論。女性の感情の深いところから生じる産児制限に対する質疑を暗示している点、自分と共通な或るものを筆者も持たれていると思い興味をもった。あれは未だ纏った考えと云うより、一つの暗示にすぎないから、女性中心思想によって敷衍された結論に猶考える余地があるとしても、その核心である女性のデリケートな自尊心については味うべきものであると思う。所謂進歩し、懐疑なく性生活を支配している新女性にとっても。
 中河さんが、右は冗談にあらずという断り書をつけ、真面目に云っておられるのが、私を微笑させた。同時に愉快な感じを与えた。世の中には、浅薄な人間はそれをきいてただ笑うが本当は大切なことだという問題が多くある。人は、笑われても平気で正面から
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