是は現実的な感想
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)九品仏《くほんぶつ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九二七年二月〕
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 始めて郊外に住んで、今年は、永く美しく夏から次第に移り行く秋の風景を目撃した。これまで、春から夏になる――初夏の自然は度々亢奮して活々感じたが、秋をこのように、落ちる木の葉の色、雨の音にまで沁々知ったのは初めての経験であった。
 九品仏《くほんぶつ》その他、駒沢からこの辺にかけて、散歩するに気持よいところが沢山ある。名所ではないが、自然が起伏に富み、畑と樹林が程よく配合され眺めに変化があるのだ。ぶらぶら歩いていると、漠然、自然と人間生活の緩漫な調和、譲り合い持ち合いという気分を感じ長閑《のどか》になる。つまり、畑や電柱、アンテナなどに文明の波が柔く脈打っているため、威圧的でない程度に自然が浮き上り、一種の田園美をなしている。いつか、長崎村附近を散歩し、この辺とは全然違う印象を受けた。あの辺の村落は恐ろしい勢で解体しつつある。畑などどしどし宅地に売られ、広い地所をもった植
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