、兄たちの辿っている人生の道から離れた別のものとして感じ直した。
「ふーん、そうだったのかい」
慎一もそのいきさつをきくと、青年らしく素朴な驚きを示し、同時に感服した。
「ああいう暮しを永年していると、僕らぐらいの人間は将棋《しょうぎ》の駒みたいに見えて来るんだろうね。きっと性格なんてものだって、使用価値からだけ見えているんだろうな」
二度目の今夜の話は、鴻造としたならば、荒仕事には向かないと云った慎一の言葉に沿うた提案というわけであったろう。その新興会社は満州に本社をおいて、北陸の或る都会にも支社をつくる計画があった。そこと東京との事業上の連絡、情報の仕事がある。重役直属で、それは慎一にどうかというのであった。慎一がそこにおさまれば、鴻造一個人としてばかりではない軍関係にとっての便宜でもあるらしい話ぶりであった。照子を寝かした峯子が嫂と奥へ行っている間にその話が出た。
「ところで、君、いくつになったんだっけ。もうそうなるかね。三十二三と云えばそろそろ真面目に将来の基礎をつくらなけりゃならん時代だね」
そこへ、すこし休んで髪なども結び、ぱっちりした顔つきになった峯子が果物の鉢をも
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