杉垣
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)疎《まば》らな
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)りゅう[#「りゅう」に傍点]とした姿には、
−−
一
電気時計が三十分ちかくもおくれていたのを知らなかったものだから、二人が省線の駅で降りた時分は、とうにバスがなくなっていた。
駅前のからりとしたアスファルト道の上に空の高いところから月光があたっていて、半分だけ大扉をひきのこした駅から出た疎《まば》らな人影は、いそぎ足で云い合せたように左手の広い通りへ向って黒く散らばって行く。
「どうする、歩くかい」
「そうしましょうよ、ね。照子抱いて下されるでしょう?」
「じゃ、峯子このごたごた持て」
嫂《あによめ》がかしてくれた薄い毛糸ショールでくるんだ照子を慎一が抱きとり、峯子は慎一のその肱《ひじ》に軽く自分の白い服につつまれている体をふれさせるようにして歩調を揃えながら、一緒に山登りなどもする若い夫婦らしい闊達な足どりで歩きはじめた。二人は駅前からのバスで、十ほどの停留場を行った奥に住んでいるのであった。
「か
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