とかいう対象とはちがった魅力の刺戟であるらしかった。現に土地の有数な実業家の一人がそれで資産をこしらえた。
「運輸会社の重役でね、そんなところの重役ぐらいしていたとこでそんな資産の出来っこがないんだ。よほど前のことだが或る機会にずばり訊いたらね、いや実は貝柱の内職があるんだってわけさ。それで思い付いたんだ」
「買いしめるわけか」
「そうさ」
テーブルの上で、飯島はポンポン煙草をたたきながら、
「丁度やりかかろうとしたとき、急にこっちへ来ることになってしまったが……今度はやるよ」
「そんな元手がいつ出来たのかね」
口の重い志保田が、変にばつのわるいような生真面目な顔つきで質問すると、
「銀行からかりるさ!」
その度胸がなくて、という風な答えかたで、銀行利子とその貝柱がこの半年の間に騰貴した率とを比べたりして、飯島はビールのせいよりも自分の話題で紅潮した顔を、友人の一人一人に向けて話した。
「いくらくらいかりるんだ」
「銀行が貸すだけ借りるつもりだ」
それをきくと同時に、志保田は椅子の上で居ずまいを直すように体を動かし、伏目のまま煙を吐きながら、そこに出ている灰皿の底へきつくバット
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