草じゃないんだ」
飯島はちょっと肩をすくめるようにして笑って、
「僕のやるのは貝柱の方だ」
ヨーロッパ大戦でもはじまればそれこそ大したものだが、そうでなくって中国へ出すだけでも北海道の貝柱は足りないくらいだ。
「支那人は皆あれを料理につかうんだからね。――どうだい、出資しないか」
「本当に、そんなにみんなが食うのかい?」
戸山が、にやつきながら飯島の顔を見た。
「俺は『大地』って映画をみたが、そんなものを食っちゃいなかったぜ」
「君は駄目だよ、毒舌を弄するばかりで福運のない男だよ、この前わざわざ手紙であんなに金を買っとけと云ってよこしたのに、何もしなかったじゃないか」
むきな調子で戸山をそうきめつけておいて、飯島は、黙ってきいている慎一に向い、
「貝柱っていったって、白い綺麗な菓子みたいに乾したものでね、このくらいの」
と手で箱の大きさを示して見せた。
「箱入りで、臭くもなんともありゃしないんだ。二三年は平気でもつもんだ」
貝柱が白くて綺麗で菓子みたいであることを、飯島はひどく熱心にのべた。
そんなに白くて小さくて綺麗な貝柱の類で、巨万の富をつめるという想像が、山林とか鉱山
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