彫りか土偶かのような、単純に目、鼻、口と切りあけたというようなマスクをしているのだろう。顔だちとしては、一人一人が別の自分の顔立ちをもってはいるけれども、奇妙な無表情の鈍重さが、どの顔にも瀰漫している。医大の制帽の下の眉の濃い顔の上にも。無帽で、マントをきた瘠せた青年の顔の上にも。しかも、その顔々は、図書館の広間に集り、街頭には無い何かのゆたかさを、それぞれの精神に摂取しようとして、待っているのである。混む省線の中で、どっと乗りこんで来た専門学校の学生のかたまりなどと、計らずも密着して立ち、揺られてゆくようなとき、それらの若い顔の粗笨な単調な刻みにおどろきを感じたことが一度ならずある。戦争は、におやかであるべき青春の相貌を、このようなものに変えた。その思いで、いつも、心の底ふかくこたえて来る感銘があるのであった。戦争をさしはさんで何年ぶりかで図書館へ来て見れば、図書館に充満しているのは、そのような青春の顔々である。これらの顔々が、人間らしい軟かさ、鋭さ、明確さの交々流動するものに、両び成りかわってゆこうとしている。その無言の欲求が、ここにこれだけの数のその顔々をあつめていると思えるので
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