図書館
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黄櫨《はじ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四七年三月〕
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 あいそめ橋で電車をおりて、左手の坂をのぼり桜木町から美術学校の間にある通りへ出た。美術館の横手をのぼって、博物館前を上野の見晴しの方へ通じるこの大通りは、東京の風景がこんなに変った今もやはりもととあまり違わない閑静さをたもっている。美術学校の左側の塀を越して、紅葉した黄櫨《はじ》の枝がさし出ている。初冬の午後の日光に、これがほんとに蜀紅という紅なのだと思わせて燃えている黄櫨の、その枝かげを通りすがりに、下から見上げたら、これはまた遠目にはどこにも分らなかった柔かい緑のいろが紅に溶けつつ面白く透いていて、紅葉しつつ深山の木のように重なりあっている葉の複雑な美しさにおどろいた。
 電車の乗り降り場にしては、重々しすぎて陰気な京成電車の、何年もしまったきりの入口を見て左へ折れ、音楽学校前への通りをすぎると、木の下に赤いポストが立っている。そこが上野の図書館入口の目じるしである。きょうは曝書でも
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