見てその節があると、何となく心がおさまる。私にとってそういう風な、図書館の一つのつきものなのであった。書籍をかかえて書庫との間を往復する少年や青年たちの、あの興味なさそうな、のろくさいすべての動作と埃っぽい顔色と同じように。――
この前に来たときと、きょうとの間に七年の月日が経過している。間に戦争のはさまった七年であった。あの司書はいるだろうか。左へ右へ司書の顔を見くらべた。それらしい人は見当らない。ぼってり太った、白い無精髭の生えた爺さん、この司書は体つきからして別人である。若い人は論外だし、もう一人いる人も、円いような顔の老人で、すっかり背中を丸め、机の下でこまかい昔の和綴じの字書の頁をめくっている。もうあの人もいなくなったのかもしれない。
時の推移を感じ、私は視線をうつして、前後左右に待っている閲覧人のどっさりの顔を眺めわたした。ここには青年が多い。それは、いつもそうであった。だけれども、今そこここに佇んだり、長椅子にかけたりして本の出されるのを待っている若い人々の顔つきは、こうして集っているところを見ると、もととはちがっているのにおどろかされた。何と、これらの若い顔々は、木
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