を、深く、公平に考えなければならないのである。
若し、その行為が、動機に於て全く絶対なものであり、その人の過去の経歴、性格等によってはそうほか成りようのないものであったのなら、私は、たといそれが百人、千人の為る平凡な、或は愚といわれる種類の行為であっても、それは仕方がないと思う。批評の外に出ている。そこに、人間の個性的運命の、襟を正さしめる寂寥と絶対とが存するのである。
けれども、それ等の、長い眼、大きな心から見れば確に例外、悲しむべき除外例とすべき一事件に対して、周囲が、何等かの意味に於て同様の不安に苦しめられている時、批評、噂する態度は、非常に常軌を逸して来る。
先ず、ト胸を打たれて忽ち冷静を失う。嘗て、或る知名な女流歌人が右のような行為に出た時、都下の或る大新聞は、文化の最高指導者たるべき紙面を、全部その報告、ドキドキさせるようなロマンチック・センセーションで埋めまでした。寧ろ、悲惨な心持がせずにはいない。それほど、皆が心を動顛させられる。其人[#「其人」に傍点]の圏境、その人[#「その人」に傍点]の持って生れて来たに違いない内在力などが、明に頭に考えられるより先に、自他を
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