とをお前に訊きたいんだが、ありのまま、何でも返事しておくれ、ね信子」
「何でございますの?――けれども、あなたは、ほんとにいけませんわ、あまりお頭をお使いになると、また気分が悪くおなりになるのだから、後でよろしいことなら、後ほどに遊ばせよ、ね」
「後じゃあいけないから、今訊くのだ――ね、信子、お前は――変だと思っちゃあ、いけないよ。ただ、俺の気になって仕様がないから、参考のために、聞くのだからね、――お前は、誰かに頼まれて、俺のところへ来たのじゃあないのか?」
 正隆は、そう云いながら、ひどく当惑し、混乱した表情を浮べて、眼をしばたたいた。その表情を、じっと眼の下に見ながら、信子夫人の唇には、例の不思議な、彼に「けれども」と思わせずには置かないような微笑を湛え始めた。
「誰かに頼まれて? おかしなことをおっしゃいますのね、それは、あなたのお母様や、私の母やなんかが、来てくれ、行け、とおっしゃったから来たのじゃございませんの、ほんとにおかしな方」
「いやね、信子、俺の云うのは、お母さん達のことじゃあない、誰か、そうさな、誰か、親類でも何でもない人に、たのまれは、しなかったかというのだよ」
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