行手を遮るのだろう。
 副島氏、生徒、垣内を使った怨念は、今は多くの先輩と、真田とを掴んでいるのだ。いつも、相手は多い、いつも、多い。それだのに、自分は独りではないか。到底敵う筈はない。頭を出すとは擲《なぐ》り、頭を出すとは擲りつけて――。今日でも自分が縊れ死ねば、凱歌を奏して、死骸の廻りを踊るだろう。
 皆が、死ねばいいと思っているのだ。皆が、首でも吊ればいい、まだ死なないか、まだこれでもかと、虐《いじ》めるのだ、何故? 分っているじゃないか、皆は俺が怖いからだ。俺の力が恐ろしいからだ。俺に出られちゃあ、自分達の立つ瀬がなくなるから、邪魔者の俺を、見えない底へ葬ってしまおうとするのだ。
 いつも狙っている、いつも隙を窺っている。それを、俺が知らないとでも思うのか、馬鹿奴。然し、お気の毒だが、俺はまだ死なないよ。邪魔にするなら、して見るが好いさ。けれども、俺も、負けてはいないからな、貴様が邪魔にする気なら、フム! 正隆は、血走った双眼をカット見据えた。覚えていろ、俺も命の限り、邪魔になってやるから!
 夢中になった正隆は、正房を抱いた乳母が御隠居様、と呼びながら主屋《おもや》へ逃げて行
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