待った。が、この予期しない発言の仕方で、正隆は、我知らず、おや変だな、と思わずにはいられなくなった。どこか、彼の思っていたものとは調子が違う。何をこれから云い出すのだろう。
漠然とした不吉の予覚が、心臓をそろそろと堅くしそうになった正隆の面前で、平常の態度に返った課長は「ところで……」と云いながら身を正した。
ところで……? 正隆は、思わず喉をゴクリと云わせた。
「ところで……あの結果ですが――。種々委員とも評議の結果、結局どうも、貴方にはお気の毒だが、真田君の方が定りそうな工合です。勿論、貴方が不出来だったという訳ではない、いや、寧ろ、お骨折で、却って立派に出来てはいる位なのだが――どうも、君も知っている通り、こういうことには種々の都合があるのでね。まあ、今の塩梅では真田君に行って貰うようになるらしいから、それを一寸、前もってお知らせした方が好いと思ったのです」
そう云い終って、また頬杖を突いた課長を凝視しながら、正隆は、思わず自分の耳を疑った。真田が行く……? 真田と――。変だな、そんなことは不可能だ、第一あんな学問もない男が――何かの間違いだろう……。
「真田君――あの、真
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