れてはいながら、その鮮やかな墨の曲線は、飽くまで白紙の上に際立っているように、彼女の輪郭は水際立っている。単に肉体の容姿のみならず、心の姿も同様の繊細な力強さを持っているのである。
美くしい。全く、美くしい。が、然し、冷たい厳かな美である。太陽の熾《さかん》な火熱の中に、燃えながら咲き満ちる華の美しさではなくて、沈黙の月光が、蒼白く顫える中に燦めく氷華《グレーズ》のような美くしさなのである。
伝統的な一種の趣味から、形に於て、信子を求めた正隆は、その容の包む魂に接近して或る Unexpected を感じずにはいられなかった。まるで、予期しなかった魂を、彼は、よいとも、悪いともいうことは出来ない。彼女を真実に愛し、或は愛そうとしている正隆は、信子によって、最後の天を示されたような心持さえ感じるのである。
結婚してから、幾度正隆は、彼女の謎めいた Warning の前に、解答を得ようとしただろう。
それは、ほんとに彼女の表情である。それ以上に説明しようもない。が然し、一度その、侮蔑ともいえない侮蔑と、自負と、愛と憎と憐愍とを一緒にして、薄水色の中に溶したような、淡い笑を浴びせられる
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