るのではあるまいか。
 彼等にとって、自分は重荷なのだ、目先にいられると、絶えず圧迫を感じずにはいられない。それで追い出そうとする。追い出したいと思いながら、断然と、それを口に出しても云えない者が、どうして、優者らしい態度だといえるだろう。つまり、自分は勝っているのだ。最後に於て勝利を得るのは、この、酷めたと思われている、自分以外の何人でもない筈なのである。
 そう思い出して見ると、正隆は、もう何も、こんな田舎の、古びた農学校なぞに未練を持つべき理由を、何処の隅にも発見しなかった。野蛮人達の、果しもつかない小競合《こぜりあい》の中に入って、争うのも惨めな位置などを眼がけるには、もう一寸自分は大きく生れ付いている筈だ。
 もっと素晴らしい未来が、自分には保留《レザーブ》されているではないか。
 正隆は立ち上って、丘児帯の後に、双手を挾みながら、部屋中を王者のように緩々と歩み廻った。そして、半年近い過去を、夢のように、それも馬鹿馬鹿しい夢を、自ら顧みて忍び笑いをするように、くすくすと肩を竦ませて、舌を出した。

        七

 こんなにして、突然豚にでもくれるように、心の中で自分の
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