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 私の処へ手紙が来てないかい。
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ときく。書生にも同じ事を聞く。
 十二時すぎに、待ち兼ねて居たものが来た。
 葉書の走り書きで、今日の午後に来ると云ってよこしたんで急に書斎でも飾って見る気になる。
 机の引出しから私だけの「つやぶきん」を出して本棚や机をふいて、食堂から花を持って来たり、鼠に食われる恐ろしさに仕舞って置く人形や「とんだりはねたり」を並べたりする。
 妙にそわそわして胸がどきどきする。
 母に笑われる。でも仕方がない。
 花を折りに庭へ出て書斎の前の、低い小さな「□□[#「□□」に「(二字分空白)」の注記]石」から足を踏みはずしてころぶ。
 下らない事をしたものだと思うけれ共、急《せ》いたり、あんまり喜んだりするときっとこんな事を仕出来すのが私の癖だ。
 足が痛い痛いと云いながら私が家中□[#「□」に「(一字分空白)」の注記]走して居るのを皆が笑って誰も取り合わない。
 すっかり飾って仕舞うと三時近い。
 顔が熱くなって唇がブルブルして居る。
 S子の顔を見るまでは落つけないのだから――
 今ベルがなるか今ベルがなるかと聞耳
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