秋風
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)余計《よけい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一人|放《ほう》って置いて

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(例)[#ここから1字下げ]
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 秋風が冷や冷やと身にしみる。
 手の先の変につめたいのを気にしながら書斎に座り込んで何にも手につかない様な、それで居て何かしなければ気のすまない様な気持で居る。
 七月からこっち、体の工合が良くない続きなので、余計《よけい》寒がりに、「かんしゃく持」になった。
 茶っぽく青い樫の梢から見える、高あく澄んだ青空をながめると、変なほど雲がない。
 夏中《なつじゅう》見あきるほど見せつけられた彼の白雲は、まあどこへ行ったやらと思う。
 いかにも気持が良い空の色だ。
 はっきりした日差しに苔《こけ》の上に木の影が踊《おど》って私の手でもチラッと見える鼻柱《はなばしら》でも我ながらじいっと見つめるほどうす赤い、奇麗《きれい》な色に輝いて居る。
 こんな良い空を勝手に仰ぎながら広い「野《はら》っぱ」を歩いて居る人が有ろうと思うと
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