二の立場をよく理解した。

          三

 村役場と村役場、村役場と姪の一家族。交渉はなかなか手間どった。永年住んでいたものだから、毎月敷生村から救済費として米を六升ずつ送る条件で、愈々《いよいよ》沢や婆は柳田村に移されることになった。
 沢や婆は、一軒ずつ暇乞いに歩いた。
「私ももうこれでおめにかかれませんよ、こう弱っちゃあね」
 ごぼごぼと咳をした。
「どうも永年御世話様でございました」
 彼女がもう二度と来ないということは、村人を寛大な心持にさせた。
「せきが出るな――せきの時は食べにくいもんだが、これなら他のものと違ってもつから、ほまちに食いなされ」
 麦粉菓子を呉れる者があった。
「寒さに向って、体気をつけなんしょよ」
と或る者は真綿をくれた。元村長をした人の後家のところでは一晩泊って、綿入れの着物と毛糸で編んだ頭巾とを貰った。古びた信玄袋を振って、出かけてゆく姿を、仙二は嫌悪と哀みと半ばした気持で見た。
「ほ、婆さま真剣だ。何か呉れそうなところは一軒あまさずっていう形恰だ」
 明後日村を出かけるという日の夕方近く、沢や婆は、畦道づたいに植村婆さまを訪ねた。竹藪を
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