秋の反射
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)略《ほぼ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)田舎[#「田舎」は底本では「 舎」]では
−−
一
田舎[#「田舎」は底本では「 舎」]では何処にでも、一つの村に一人は、馬鹿や村中の厄介で生きている独りものの年寄があるものだ。敷生村では十年ばかり前、善馬鹿という白痴がいた。女子供に面白がられたり可怖がられたりしていたが、池に溺れて或る冬死んだ。それ以来幸なことに白痴は一人も出なかった。尤も、気違いが一人いたが。――三十五になる、村ではハイカラな女であった。彼女は東京に出て、墓地を埋めて建てた家を知らずに借りて住んだ。そこで二人目の子供を産んで半月立った或る夕方、茶の間に坐っていた女がいきなり亭主におこりつけた。
「いやな人! 何故其那に蓮の花なんぞ買いこんで来たんだよ、縁起がわるい!」
亭主は働きのない、蒼い輓い顔をした小男であった。
「――俺そんなもの、買って来やしねえ」
「うそ! 壁まで蓮の花だらけだよ。この人ったら」
「買わねえよ――何云って
次へ
全10ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング