二に告げた。
「――あの婆さま――死ぬんじゃあんめえか」
「そんなか?」
「なんだか――俺やあな気がしたわ」
仙二が行って見た。翌朝、彼はぶっきら棒にいしに命じた。
「飯炊くとき、おねばりとってやんな」
その次の日又重湯を運んでやり、歩けるようになる迄、粥をやるのがいしの任務であった。仙二は、苦笑しながら半分冗談、半分本気で云った。
「あげえ業の深けえ婆、世話でも仕ずに死なしたら、忘れっこねえ、きっと化けて出よるぜ」
沢や婆は、幸死なずに治れた。が、すっかり衰えた。憎たらしい、横柄な口も利かなくなった。いずれにせよ、仙二はこの経験で、彼女を隣人として持つことは、どのような手数、心の重荷――厄介かということを知ったのであった。
青年団の寄合で、村会議員の清助に会った時、彼はざっくばらんに自分の意見を話した。
「どんなもんだべ、俺、まだ足腰の立つうち柳田村さやるのがいいと思うが、あっちにゃ何でも姪とかが一戸構えてる話でねえか。――万一の時、俺一人で世話はやき切れねえからなあ」
「そうともよ、皆さ計って見べ」
清助は、大力な、髭むじゃな、字の読めない正直な金持の百姓であった。彼は仙
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