――本当にこの永い一生、何をして生きて来たんだろう。村の人は、土地に馴れたという丈でやっと犬が吠ないような身装をし、食べ歩いて生きている癖に、高く止っている婆さんを軽蔑した。誰からも愛されず、内心では互にさげすみつつ、食物のたっぷりした処を探しては自分で食って来るので、どうにか此年月が過て来た。

          二

 この瞬間が、いつ迄続くものだろう。
 真先にここに気づいた仙二は、さすが青年団の口ききだけあった。彼は、役場に用事があった時、戸籍係に、沢や婆さんの戸籍を調べて貰った。彼は三十四年目で始めて、彼女が有坂イサヲと云う姓名で、籍は二里近く離れた柳田村にあることを知った。
 此那奇蹟的関心が沢や婆に払われるには原因があった。仙二の家の納屋をなおした小屋に沢や婆は十五年以上暮していた。一月の三分の二はよその屋根の下で眠って来た。夏が去りがけの時、沢や婆さんは腸工合を悪くして寝ついた。何年にもない事であった。一日二日放って置いた仙二夫婦も、四日目には知らない顔を仕切れなくなった。女房のいしが、
「婆さま、塩梅どうだね」
と尋ねて行った。彼女は間もなく戻って、気味わるそうに仙
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