室中に何とも云えず重い懶い雰囲気がこめている。
その同じ娘が 人中では顔も小ぢんまり 気どる。スースーとモダン風な大股の歩きつきで。
それに対する反感。
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     十一月初旬の或日

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やや Fatal な日のこと。
梅月でしる[#「しる」に傍点]粉をたべ。
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 午後久しぶりでひる風呂、誰もいず。髪をあらう、そのなめらかな手ざわりのなごやかさ。
 日当ぼっこ、髪かわかしカン※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ス椅子
 柿モギの声 昔の家のことを思う

 夜。暗い屋敷町
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 歩いている男 ホームスパン的な合外套の襟を立てて靴の音、
 横丁から出て来た犬と少女。すぐつづいて男と女。
 ずっと歩いていて、煙草のすいガラをパッとすてた、火の粉が暗い舗道の上に瞬間あかるくころがる。
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 夕暮。もう家のなかはすっかりくらい。留守で人の居ない庭へ面してあけ放たれている さっぱりした日本間。衣桁の形や椅子の脚が、逆光線で薄やみの中に黒く見える。つめたいさむさ。土の冷えが来るよう
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