ひともこの頃顔がなかなかしっかりして来たね」
「うん、いろいろ書いてやっているからね」
[#ここで字下げ終わり]
 林町の通りへ入ったら後から Head light、そうかな。こっち止る、うしろも止る。すると緑が出て来てドアを外からあけてくれる。そういうものごしの中にある スラリとして細かいところ。

     秋の夕映

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午後五時頃、
 廊下へ出て見るとまるでつき当りの窓が赤い。
 空を見ると
冴えた水色とすこし澱《にご》った焔のような紅色とが横だんだらに空じゅうひろがっている。何だか他の季節の夕やけのように光の暖みを感じられず 只色どりの激しさのみ感じられ、変に不安を刺戟されるような印象である。
 その横まだらの空に 葉を半ば落したサイカチの梢がそびえている。
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○十一月の或小雨もよいの午後四時。
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暗いので部屋に灯がついている。
入った右手の安楽椅子のところに紀 ラクダ毛布を引かついで眠をぶっている。
※[#丸ス、1−12−71]紫矢がすり 赤い友禅のドテラ引かぶって櫛のハの通っていない髪 青い半ぐつした。

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