溌にハハハと笑った。
「こんな商売こそしてるが、家は堅いんだからね、お金だって確かなもんさ、人に云えないような貰いなんぞ鐚《びた》一文ない代り、定った給金はちゃんちゃん懐に入るんだからね……」
重次は、ぽつりぽつり云った。
「そうともよ、それにその娘あ、まあ次第によっちゃあ、お前《め》えんところから嫁の世話でも仕て貰いてえ位に思ってるらしいから落付くだろう」
いしは、早く当人を見たいと思った。
「それでなにかい、その娘は今逗子にいるんですか」
「いいや、もう来ているのさ」
「何処に? この土地にかい?」
「ああここに」
「ここに? なあんだ! そいじゃあ一緒に来たわけかい、馬鹿馬鹿しい、お前さん、何だって今まで黙ってるんだよ、可笑しな人っちゃあありゃあしない」
いしは、笑いながら、四枚閉る硝子戸の方をすかすようにして声をかけた。
「さあ、一寸お前さん、入っておくんなさい、ちっとも遠慮はいらないよ」
重次に、
「何て名だい」
と訊きながら、薄暗い土間に現われる娘の姿を、いしは熱心に見た。
「おい、ろく公、這入んな」
のそりと、硝子の彼方から、ろくは土間に入って来た。にやにや笑い
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