うな家だのに、近頃××寺の僧たちは、大分そちらにとられた。酒や煮物が、特別小松屋と異うのではない。いしは、微妙なその秘密を知っていた。それは、二十四になる、たから亭の娘が小綺麗で、気まぐれだという評判があるからだ。
 いしは、今度こそ本当に若い、可愛い、素直な娘を探そうと思い込んだ。そして、この頃は蒲団ばかり借りて行く僧たちを、また、うちで飲ましてやるのだ。彼女は方々に世話を頼んだ。
 お柳が出てから、間のない夕方であった。いしが、例によって台所にいると、店に博労の重次が訪ねて来た。
「おかみさん、一寸手ははなせねえか、話のあった娘っ子が見つかったんだが」
 いしは、紺絣の前掛で手を拭きながら出て来た。
「そうですか、そりゃあありがとう。何にしろ、おせき一人じゃ困るから、いくつです」
 重次は、煙草を吸いつけながら答えた。
「注文よりゃ二つ三つくってるがね、二だとよ」
「――なかなか頃合というものはないもんだね。で、どこだい? 生れは」
「逗子だとよ、親許あ」
「やっぱり浜のもんだね……私が浜育ちでがらがらだから却って調子が合うかもしれない」
 いしは、新しい女に対する好奇心や希望で活
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