って仕様がないじゃあないか、いい年をして何だね。あの駐在め、目をつけたからこれでまた当分五月蠅いや」
 いしは、頻りに何か考えていたが、午後手がすくと、せきを呼んだ。
「一寸すまないが××寺へ行って、権さんてのをつれてきとくれな」
「そんな男に何用があるんだ」
「まあ、まかしておくれ、わるいようにはしないから……仕様がない、おろくと一緒にするのさ」
「一緒にするたって、荷物つきだぞ」
「…………」
 権は、飛び出た眼を不安そうに突き出して直ぐ来た。せきから、今朝の始末を聞いたと見え、彼は、恐縮そうに縞の着物の膝を畳んで挨拶した。
「よく来ておくんなすったね。少し話があるから――じゃ奥へ行きましょうか」
 せきが、茄子の煮たのと酒とを運んだ。一時間ばかりすると、いしの機嫌のいい大声が聞えた。
「おろくどん! 一寸」
 おろくは、台処にい、声をきくと却って手脚をすくめた。
「一寸! 早くおいでいい話だよ」
「ほら、いい話だってさ! 早く聞いといでよ」
 せきが後ろから押すようにして、二人が座敷に入った。ろくは、いい顔色で坐っている権を見ると、忽ちにやにやした。権はひどく改まっている。いしは
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