、今朝とは大違いの調子で、
「おや、笑ってるね、そんなに嬉しいとは羨しいね」
といきなり揶揄した。
「さあ、お礼を云って貰わなくちゃならない。私が口を利いて、権さんが、すっかり承知でお前を女房にしてくれるとさ。本当に今度こさ正真正銘のおかみさんだよ」
ろくは、薄すり開いていた口のはたを、ぼんやり指で擦りながら、いしから権、権からせきを見廻した。やっと、彼女に合点が行ったらしい。ろくは、眼を小さく小さくすると何ともいえない笑顔になった。せきといしは一時に吹き出した。
「何だよ、その顔は? とろけちゃうさ、本当に。とんだ仲人役を勤めちゃった、ああああ」
「おかみさん……でもよく……まあ……」
「そりゃあ私にかかっちゃね、権さん。どうか末長く可愛がってやって下さいよ」
権は、顔も崩さず、
「へえ」
と云った。
彼は、自分ばかり見ては締りなく笑っているろくに向って云った。
「そうきまれば、俺あこれから毎晩来るからな、貴方と呼ぶんだよ、きっと。いいか」
「貴方だってさ、ハッハッハッ、お前じゃいけないんだってさ、ハッハッハッ」
と女房が笑いこけるのに耳もかさず、ろくは仕合わせに恍惚《うっとり
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