か人声で目を醒した。何処でも起きるには早すぎるのに、誰だろう。気になるのは、その余り穏やかでない耳馴れない男の声がどうも店の囲りですることだ。いしは、寝間着の裾を踏みつけながら、帳場へ行って見た。表戸は白い幕を垂れて、まだ夜が残っている。ぐるりと、台処から横木戸の濡縁の方を見て、いしは、思わず眼を擦った。露の一杯たまった茗荷畑の傍にしょんぼり立っているのは、ろくではないだろうか。その前に、姿勢よく突立ってこわい顔をしている浴衣の男は――いしは、これはいけないと思った。駐在だ。
彼女は、戻ってきちんと帯をしめて来た。そして、何気なく縁側の雨戸をくりあけ、始めて二人を認めたように、さも不思議そうに、
「おや」
と、低く叫んだ。
「……そこにいらっしゃるのは……駐在所さんじゃあございませんか」
若い駐在は、いしにむっとした一瞥を与えた。いしは、下駄を突かけて、濡れた空地に出た。
「おや……まあ何だろう、誰かと思ったら……おろくさんじゃあないか!――何かいたしましたんでしょうか」
駐在は、その手は食わぬという風にきめつけた。
「わかるだろう、この装を見たら」
ろくは、下駄だけは穿いてい
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