たが、帯ひろ前であった。何処からか帰ったところと見え、もちゃもちゃの髪に木の葉が一枚ついていた。いしは当惑した。ぐると思われているらしいのが、彼女には何より迷惑であった。いしは、ろくを怒鳴りつけた。
「いつの間に、何処へ行っていたんだよ! 旦那にお世話までやかして。まさか盗みに行ったんじゃあなかろう、ちゃんと申上げな。お前のおかげで、私までとんだ迷惑をするじゃあないか」
 ろくの手を引張りながら、いしは駐在に云った。
「どうも、まことに相すみません、一体この女はねどうも足りないもんでございますから、この間も行方知れずになったりなんぞして……いくら家にいるもんでも、御法に触れるようなことをしたんなら、仕様がございません、充分お調べ下さった方が手前共も証が立って嬉しゅうございます。――それにしてもお立ちでは……さ、どうぞ、こちらに一寸おかけなすっていただきましょう」
 いしは、縁側に座蒲団を出した。駐在は、ぎごちない様子で座蒲団の端に腰を卸した。物音で、せきも起きて来た。彼女は、怯えたように、しおたれて立っているろくと厳しい駐在とを見較べた。彼女は囁きでいしに訊いた。
「どうしたんです、お
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